日本酒原料の米は造りに入る前に精米、洗米・浸漬(しんし)、蒸きょう(じょうきょう)を行うがそれぞれの工程は出来上がる酒質に大きく影響を与える。

1)精米(せいまい)

(1)精米の目的について

精米は清酒の着色、香味を害する成分を取り除く目的のために行う。玄米の表面は果種皮や糊粉層から成り、ここにはタンパク質、脂肪、無機質、ビタミン等が多く含まれ、これらは清酒の香味、色沢を劣化させる。

(2)精米の効果について
①デンプンは精米の進行にしたがって漸次増大する。
②粗蛋白は精米によって米粒の表面にある糊粉層の水溶性蛋白質(アルブミンとグロブリン)は急速に減少するが、米粒の内部にある貯蔵蛋白質顆粒(プロラミンとグルテリン)は減少率が低く、粗蛋白の除去率は精米歩合50%で約60%程度である。
水溶性蛋白質のアルブミンやグロブリン、貯蔵蛋白質顆粒中のグルテリンは麹のプロテアーゼ酵素によってアミノ酸に分解され、さらに酵母菌によって消化されて清酒の香味に強く影響を与える。特に精米歩合の高い(玄米に近い)白米は水溶性蛋白質の除去率が低く雑味の強い酒になる。
③灰分は精米歩合が85%くらいまでは急速に減少しするが以後の減少率は少なくなる。残留成分は主としてカリウムで、酵母菌の生育に役立つ。
④粗脂肪は灰分と同様に85%までは急激に減少する。米に含まれる脂肪酸は内部に行くほど飽和脂肪酸の比率が高くなり、特にパルミチン酸が多くなる。飽和脂肪酸は芳香のある高級エステルやグリセリンの生成に寄与する。
精米度の高い白米(玄米に近いもの)は貯蔵条件が悪いと独特の異臭が付くことがある。これは不飽和脂肪酸の酸化によるものである。

2)洗米・浸漬(しんし)

(1)洗米の目的

洗米は白米の表面に付着した糠や夾雑物を除去するために行う。
洗米によって糠からくる、清酒の雑味となる蛋白質や脂質、灰分などがとり除かれる。洗米前と洗米後の白米を顕微鏡で観察すると白米表面が洗い流され、滑らかになることから「第二の精米」とも云われている。したがって十分に洗うことが重要である。

(2)浸漬(しんし)の目的

浸漬(しんし)は、白米の生デンプンのアルファ化に必要な水分を吸水させるために行う。
浸漬による白米の吸水率は、米の品種、精米歩合、白米の水分含有量、浸漬水の温度などによって異なり、蛋白質の多い一般米や精白歩合%の高い米、白米水分の多い米、浸漬水温が低い時などは吸水速度が遅くなり吸水率が低くなる。浸漬にはこのような著条件を考慮しながら目的とする吸水率に到達するまで行う。
吟醸など低精米歩合の白米は、微小な孔を持った多孔性微粒子の性質を持ち、洗米・浸漬時に水の中に含まれる鉄分やカルシウム、マグネシウムなど分子量の高いイオンは吸着され、麹の酵素による蒸米の溶解に影響を与え、これらの成分含有量の多い水は溶解糖化が促進され、逆に少ない水は溶解糖化が少なく、出来た清酒の味に強く影響を与える。したがって、精米歩合が50%以下の白米の洗米・浸漬水の成分には留意する必要がある。

3)蒸し

(1)蒸しの目的について

蒸しの目的は米粒中の生デンプン(β-デンプン・結晶化デンプン)をα-デンプン(糊化デンプン・非晶質性デンプン)に変えるために行う。
日本酒製造に使われる麹菌(アスペルギルス・オリゼ)はα化されたデンプン上でないと繁殖しない。また、麹菌の生産する溶解糖化酵素の働きもα化されたデンプンでないとほとんど作用しない。

(2)蒸しの効果について

①米粒デンプンのアルファ化。
麹菌の繁殖、酒母、もろみの溶解糖化を促進する。
②米粒中の蛋白質を熱変性。
蛋白質の熱変性は麹菌が生産するタンパク分解酵素の働きを弱くして、清酒中のアミノ酸の生成量を少なくする。
③米粒中の脂質を分解揮散。
低分子の不飽和脂肪酸の減少は酒質の劣化を抑える。
④蒸しによる米の殺菌。
開放発酵である清酒の発酵工程を安全にする。

(3)米の蒸し時間と蒸米の汲水率と品質について

①蒸し時間
蒸し時間は甑の全面に蒸気が抜けてから50分~60分くらいとする。蒸きょう(じょうきょう)前後の蒸米の重量増加率は下記の式で算出する。増加率は蒸米機の種類や加熱加減、甑(こしき)掛前の浸漬米の品温等によって若干異なるが普通10%~13%前後である。
②麹用の蒸米の吸水率と品質について
麹用蒸米の吸水率は麹の良否、就いては酒質に大きく影響を与える。麹米の吸水率は原料米の種類や精白歩合などによって若干異なるが43%前後が良いとされている。これより少ないと麹菌の繁殖が蒸米の表面に集中して内部への食い込み(繁殖)が悪くなり、俗に言う上塗麹(うわぬりこうじ)になり、逆に多いと麹が出来過ぎて、馬鹿破精麹(ばかはぜこうじ)になる。しかし、この吸水率はあくまでも目安で、例えば麹室(こうじむろ)が乾燥し易く、かつ蒸米の室への引き込み量が少ない時は、これよりも吸水率を高くする必要があり、また、逆の場合には低くする必要がある。
麹米の、最適の吸水率は後述する麹の力価を測定しないと分からない。名人杜氏と云われる人たちは自分の蔵の麹室の性質をよく知り、それに合わせた吸水率を経験的に導き出し、ほぼ理想的な分析値の麹をつくっている。
③掛蒸米の吸水率について
掛米の吸水率は清酒の粕歩合や酒化率などに大きく影響を与える。大吟醸酒のように粕歩合が40%~50%を目指す場合の吸水歩合は約38%前後が良いとされている。一方、普通清酒のように酒化率を求めるものは42%前後と高くする。
この他に粕歩合や酒化率には、仕込水の水質、米の品種、精米歩合、麹の酵素力価、仕込配合、もろみ発酵の温度管理なども影響する。
特に日本酒は糖化と発酵が複雑に重なり合った並行副発酵で、蒸米の汲水率の多寡は酒の品質に大きく影響を与える。

(4)蒸米の放冷について

麹及び掛蒸米の放冷はできあがった清酒の品質に強く影響を与える。
①麹蒸米の放冷
室前で荒(あら)息(いき)(蒸しあがった時の蒸米の水分)をぬき、温度が36℃~40℃になった時、麹室に引き込む。この時、蒸米の表面を冷やし過ぎないように注意する。
②掛米の放冷
室温10℃前後の広く清潔な場所で蒸米を薄く広げて放冷する。放冷の際の室温は蒸米の吸水率によって異なり、汲水率が高い時は室温を若干高くする。
(麹、もろみの項参照)