杜氏 ーHuman Histryー 第1回目の訪ね人は、丹波篠山市在住の丹波杜氏組合相談役、菊正宗酒造株式会社/嘉宝蔵名誉杜氏の小島喜代輝氏です。
小島喜代輝氏は曾祖父から4代続く丹波杜氏の家系に生まれ、秋の取り入れ後から翌年の3月まで、灘の酒蔵に蔵入りされる生活を49年続けられ、その後は、丹波篠山市の名産”丹波黒豆”の栽培の傍ら、名誉丹波杜氏として、300年に渡り受け継がれてきた丹波杜氏の匠の技術をその歴史とともに現代に伝えられています。
2021年11月10日、丹波篠山市にある丹波杜氏酒造記念館で丹波杜氏組合 向井宏之事務局長とご一緒にお会いすることができました。
その時の面談骨子は以下の通りです。
1. 昭和〜平成に変わる頃より(出稼ぎ)酒造り人材が集まらなくなる
丹波杜氏組合でも、昭和から平成に移るころから酒蔵に出稼ぎにいく若者が集まらない状況になってきました。理由は、農業の変化、地元に工場、公務員志向など、酒造りのため出稼ぎに行かなくてもよくなってきたのでしょう。
2. 丹波杜氏組合の存続も危ぶまれる状況に、「丹波杜氏」の名を残すために奔走
このままでは、丹波杜氏、丹波杜氏組合も無くなってしまうのではないかという思いから、組合長はじめ手分けして、「灘の酒蔵」を4~5年かけて訪ね、現職の丹波杜氏が引退した後、製造部長ほかの”社員杜氏”を“灘の杜氏”と言わず、“丹波杜氏”という名称を使ってほしいとお願いして回りました。
結果、酒蔵各社にも了解していただき、更には、灘の社員杜氏は夏には丹波杜氏組合に醸した酒を持ち寄り、利き酒を行い、酒の勉強をするといった灘の社員杜氏が丹波篠山に集まる流れができました、今では”丹波杜氏”の名称を使わせてほしいという酒蔵も出てきています。
3. 出稼ぎ型の杜氏は減少、蔵元杜氏、社員杜氏に置き換わっている
現実的には、従来の杜氏(10月〜3月の酒造期に出稼ぎで酒造りを行う)は、蔵元杜氏や社員杜氏の2つのタイプに置き換わってきています。私としては、もう1つのタイプとして酒造の技能を持つ「職人」がで出てきてほしいと思っています。
4. 「杜氏」は日本酒ブランドを海外に広めるストーリーに欠かせない要素
海外へ日本酒を輸出する場合、メーカーとしての酒蔵の名前より、例えば、丹波流の「○○杜氏」が醸した酒と表現した方が、造り手の物語、自然背景などのストーリー性があり、味わいとともにしっかりと伝わっていくのではないか。地方の酒蔵にとって大事な事と思っています。丹波杜氏、南部杜氏、能登杜氏、出雲杜氏等々 杜氏集団の名前はブラントストーリーに欠かせない要素ではないでしょうか
5.現在も丹波地域の酒蔵では丹波杜氏による丹波流のお酒が造られている
最後に、丹波流を代表する酒造りは、生酛造り。 香り大吟醸とは違う昔ながらの濃い味で、今でも丹波地域の酒蔵では、丹波杜氏が生酛造りで醸しています。